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痛みの雑学

寝違え、こり、ストレートネック…日常生活に影響する首の痛みの対処法

Vol.9寝違え、こり、ストレートネック…日常生活に影響する首の痛みの対処法

首が痛い、重い、張りがあるなど、首の痛みや違和感に関連する症状は、多くの人が経験したことがある悩みかもしれません。日常的に痛みがあると、仕事の効率が下がったり、家事が手につかなかったりと、生活に影響が出てしまいますよね。「これって医療機関で診てもらったほうがいいの?」、「自分で治す方法はないの?」などの不安や疑問を抱く人もいるでしょう。

そこで今回は、首の痛みの治療に長年携わってきた東海大学医学部外科学系整形外科学教授の渡辺雅彦先生に、首の痛みを引き起こす原因や受診の目安、セルフケアの方法などを教えていただきました。

監修:渡辺 雅彦 先生

東海大学医学部外科学系整形外科学 教授
渡辺 雅彦 先生

東海大学医学部外科学系整形外科学・教授(領域主任)、東海大学医学部付属病院病院長、日本専門医機構理事。医学博士。
1987年慶應義塾大学医学部卒業後、国内の医療機関勤務や米国留学を経て、2002年10月より東海大学医学部外科学系整形外科学に入職。2016年4月に教授(領域主任)に就任。2019年4月より現職。

つらい首の痛み、考えられる原因は?

首は、成人で4~6kgあるといわれる重い頭を支えています。支えるだけでも相当の負荷がかかっているうえに、頭を上下左右に動かすなどの動作によってかかる負荷はさらに大きくなります。一説によると、うつむいた姿勢で、首の角度が60度傾いた場合、首には約27kgもの負荷がかかるとか。これは小学校2~3年生の子どもの平均体重に相当する重さです。

このように常日頃から大きな負荷がかかっているため、首は痛みが出やすい部位だといわれています。ただし、首の痛みの多くは深刻なものではなく、セルフケアで様子をみることで症状が軽くなることも少なくありません。

ここでは、首に痛みが生じる主な原因をご紹介します。これらの原因は単独で起こるだけではなく、重なり合うことでさらに痛みが生じやすくなります。

首の痛みの原因① 加齢

首の痛みの原因① 加齢

首を支える骨は頚椎と呼ばれ、椎骨という7つの骨で構成されています。

年齢を重ねると、骨と骨の間でクッションの役割をしている椎間板が徐々に変性したり、水分が減ったりして弾力を失っていきます。この変性は誰にでも生じる老化現象の一種なので、これ自体は異常ではありません。実は、変性は10代から始まるといわれており、悪い姿勢や過度の負荷をかけ続けることによって早まる可能性もあるそう。椎間板がすり減ることで椎骨にかかる衝撃をうまく吸収できなくなった結果、痛みとなって現れる可能性があります。

また、椎間板の変性が要因となって引き起こされる病気もあります。詳しくは「首の痛みの原因⑤ 病気」で後述します。

首の痛みの原因② ケガ・損傷

スポーツをしている最中や日常生活における事故・衝撃などが原因で首に捻挫や損傷が起き、痛みが生じることがあります。外傷性頚部症候群、いわゆるむち打ち症も、首の筋肉や靭帯の損傷によるもの。大したことはないと思っていたら、数時間後〜翌日などに遅れて痛み出すこともあるので注意してください。

首の痛みの原因③ 血流の悪さ

首から肩にかけての血流が悪化し、筋肉にこりが生じることも首の痛みの一因です。筋肉量の不足、ストレス、冷房などが原因で血流が滞ると、肩こりや首こりが生じて痛みとして感じることがあるのです。

ちなみに、比較的女性に多い「なで肩」の人は筋肉量が少ない場合が多く、首や肩の血流が滞りがち。その結果として首のこりや痛みが生じやすいといわれています。

首の痛みの原因④ 生活習慣・クセ

何気ない日常生活の過ごし方が首の痛みの要因になっていることも。首やその周辺が緊張するような姿勢を長時間続けると、筋肉などが炎症を起こして痛みを引き起こす場合があります。

首の痛みの原因⑤ 病気

加齢などにより、変性した椎間板の一部が飛び出して首の骨の間を通る神経を圧迫するのが頚椎椎間板ヘルニアです。30〜50歳代に多く、進行すると首や肩周辺の痛みのほか、手足のしびれが生じることもあります。

また、椎間板や首の骨の変性によって痛みが生じる病気を「頚椎症」と呼びます。頚椎の変性などによって神経根が圧迫されて、主に片方の首から肩、腕、手にかけて痛みやしびれが生じるのが「頚椎症性神経根症」、脊髄が圧迫されて両手足のしびれや運動障害、排泄障害などが現れるのが「頚椎症性脊髄症」です。

なお、詳しい原因はよくわかっていませんが、起床後に首の後ろや首から肩にかけての痛みが出る、いわゆる「寝違え」も首の痛みを生じさせる病気の一種。数時間から数日で痛みが改善していくのが一般的ですが、痛みが強い場合、軽減しない場合は他の病気の可能性もあるので、整形外科を受診して専門医に相談することをおすすめします。

受診する? しない? 首の痛みセルフチェック

日常で感じる首の痛みで、すぐに治療が必要となるケースはさほど多くありません。とはいえ、なかには注意すべき場合もあります。以下のような痛みがある場合は、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。

  • 転んだり、ぶつかったりした後に首が痛む
  • 痛みが日に日に悪化している
  • 引き裂かれるような強い痛みがある
  • 首の痛みと同時に、手足のしびれを感じる
  • 首の痛みと同時に、胸の痛み、息切れ、発汗がある

知らないうちにやっていたかも? 首の痛みを生じさせる行動

知らないうちにやっていたかも? 首の痛みを生じさせる行動

日常生活でついやっていた習慣や行動が、知らないうちに首周辺の筋肉などに負担をかけ、痛みを引き起こすことがあります。

「同じ姿勢を続ける」のはNG

日常生活において首の痛みの原因になりやすいのは、首が固定されるような姿勢をとり続けること。つぎのような行動に心あたりがあれば、定期的に休憩やストレッチを取り入れましょう。

  • 長時間のデスクワークや勉強、PC作業
  • 長時間にわたる、前傾姿勢でのスマートフォン操作
  • 寝転がった姿勢でテレビや動画鑑賞をする
  • 長時間、同じ姿勢で車を運転する

また近年では、うつむいてスマートフォンを見続けることなどによって生じやすくなる「ストレートネック」が問題視されることがあります。

ストレートネック/正常な頸椎

ストレートネックとは、文字通り、頚椎がまっすぐになった状態のこと。首が重たい頭を支えられるのは、横から見たときに頚椎がゆるやかなS字状のカーブを描いて前弯(前方に弯曲すること)しているおかげです。しかし、うつむいて頚椎がまっすぐになった状態が続いたり、筋力の低下から頚椎を支えられなくなったりすると、いつのまにかカーブがなくなってしまい、頭の重みをうまく分散できなくなるというわけです。すると、首にかかる負荷が大きくなり、首や肩の痛みやこり、不眠、頭痛、めまいなど、さまざまな症状を招くことがあります。

ストレートネックは、首の周りの筋肉を鍛えることで予防・改善できます。このあとご紹介するストレッチや運動を取り入れてみましょう。また、スマートフォンを使うときは目の高さまで持ち上げるのがおすすめ。うつむいた姿勢を続けなければならない場合は、可能であれば15~30分ごとに姿勢を変えるよう心がけてくださいね。

セルフケアで首の痛みを予防・改善しよう

首の痛みを和らげるには、ストレッチや運動によって血流を促し、さらに継続して筋肉量を増やすのがおすすめです。筋力が弱い人や忙しい人でも手軽にできる、簡単な方法を2つご紹介します。仕事や家事、趣味の合間に、ぜひ試してみてください。

首の等尺ストレッチ

「等尺」とは尺が等しい=長さが変わらないこと。首の後ろの筋肉(僧帽筋)を伸縮させずに力を加えることで、血流改善やこりの解消が見込めます。

首の等尺ストレッチ
  1. 両手を組んで後頭部に当てます。立っていても座っていてもOKです。肘は開いた状態で。
  2. 後頭部に当てた手と頭を押し合います。うつむいたり、反らしたりせず、まっすぐ前を向いた状態で押し合いましょう。
  3. 朝と晩など一日に2~3回、気付いたときに10秒間×10セットを目安に行います。

壁腕立て伏せ

首周りの筋肉を鍛えるには、腕立て伏せが効果的。しかし、通常の腕立て伏せはハードルが高いので、立った状態で手軽に行いましょう。首や肩周辺の筋肉がほぐれ、首の痛みを予防したり緩和したりすることが期待できます。また、習慣化することで筋肉量がアップし、こりが生じにくい身体づくりにも役立ちますよ。

壁腕立て伏せ
  1. 肩幅に足を広げて立った状態で、壁に肩幅~少し広めに手をつきます。壁からの距離は、手をついたときに肘が軽く曲がるくらいがおすすめ。
  2. 腕立て伏せを行うように、ゆっくりと肘を曲げて体重をかけます。首に力を入れすぎず、肩甲骨を開くようなイメージで曲げるのがポイント。
  3. 再びゆっくりと肘を伸ばします。1回5~10回ほど、無理のない範囲で行いましょう。

※壁から離れすぎると滑って転倒する恐れがあるので、注意して行ってください。

慢性的な痛みは温め、急性の痛みは冷やす

首の痛みやこりが慢性化しているなら、温めて血流を促すのがおすすめ。寝違えなどの急に起こった痛みなら冷やしてもよいでしょう。

また、市販の湿布や消炎剤を使うと痛みが和らぐ場合は、利用するのも一つの手です。根本的な改善方法ではありませんが、特に動かすと痛みを感じやすい寝違えには有効である場合が多いそう。記載された用法・用量を守って適切に使用しましょう。

首の痛みがあるときは、マッサージや整体は控えめに

首のこりをほぐすのにマッサージや整体を利用している人もいるでしょう。施術を受けると一時的な快感は得られますが、場合によっては、こり固まった筋肉を強い力で押され、かえって痛みが増してしまうこともあります。痛みがある場合は控えておいたほうがよいかもしれません。

首の痛みの多くは自分で予防・ケアができます。同じ姿勢を続けることで首に負荷がかかり、痛みが生じやすくなるため、意識的に姿勢を変えたり、スキマ時間にストレッチをしたりして負荷の軽減に努め、首を痛みから守っていきましょう。

また、痛みの経過にも注意し、改善の様子が見られなかったり、手や足にしびれを感じたりする場合は医療機関を受診してくださいね。

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