痛みの雑学
【放置は危険! 背中の痛みやこりの原因と予防法
- 東京脊椎クリニック 院長 / 脊椎外科
梅林 猛先生 -
佐賀医科大学医学部卒業後、佐賀医科大学脳神経外科に入局。国内の医療機関に勤務したのち、東京脊椎クリニックを開設し、院長に就任。現在に至る。患者さんのつらい痛みの解消を第一に、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症等、脊椎神経疾患に特化した治療を行う。日本脳神経外科学会専門医、日本脊髄外科学会認定医、日本脊髄外科学会指導医。
首から背中にかけて筋肉がパンパンに張っていたり、背中がずっしりと重かったり、痛みが生じたり……。日常生活を送るなかで、そんな背中の違和感を覚えたことはありませんか? 背中の痛みや違和感は、放置することで症状がさらに進み、集中力の低下や動作の制限などが生じて生活に支障が出ることも。また、背中の痛みの陰に思わぬ病気が隠れていることも珍しくありません。
今回は、背中の痛みやこりの主な原因と心配な痛みの見分け方を、東京脊椎クリニックの梅林猛先生に伺いました。日常生活でできる簡単なケアの方法やストレッチ、正しい姿勢のポイントなどと併せてお伝えします。
内臓が原因の場合も? 実は要注意、背中の痛みはなぜ起こる
背中の痛みを引き起こす原因のなかでも、最も多いのは、筋肉疲労だといわれています。ですが、それ以外にも神経疾患や姿勢、さらには内臓の病気などが影響して痛みが生じることがあります。なかには対応に急を要する要注意の痛みも。そんな背中の痛みを引き起こす主な原因について解説していきましょう。
筋肉疲労、姿勢の影響
筋肉疲労とは、筋肉を使いすぎることで血液の循環が悪くなり、伸びたり縮んだりがうまくできなくなる状態のことです。筋肉がこわばって動きにくくなり、だるさを覚えたり、痛みが生じたりします。
筋肉の使いすぎというと、スポーツや筋トレ、肉体労働などを想像するかもしれませんが、実は猫背や偏った姿勢など、日常生活のクセや行動が原因で知らないうちに負担が重なり、痛みとなって現れることも多いのです。
骨折の影響
知らないうちに背骨を骨折(圧迫骨折)していたことが原因で、背中に痛みが生じることもあります。
圧迫骨折とは、骨に大きな力が加わるなどして押しつぶされることで生じる骨折です。通常は転んだり、物を持ち上げたりすることをきっかけに生じますが、高齢などで骨がもろくなると、大きなきっかけがなくても体の重みに骨が耐えられなくなって、いつのまにか骨折してしまっていることがあるのです。
寝返りを打つときに背中が痛い、背中が曲がってきたなどの症状がみられる場合、圧迫骨折の可能性も考えられます。
首(頸椎)の影響
首の痛みや異常が、背中の痛みに影響するケースもあります。たとえば、首の骨(頸椎)をつなぐクッションの役割をしている椎間板が飛び出して神経を圧迫して痛みが生じる頸椎椎間板ヘルニアでは、椎間板が飛び出す場所によっては背中に痛みが及ぶことがあります。背中の痛みとともに手足のしびれや脱力症状が生じて、生活や仕事に支障をきたすこともあります。
内臓疾患
背中の痛みの原因のなかで最も要注意なのが、内臓の病気(疾患)によるものです。内臓疾患が原因で生じる背中の痛みのなかには、緊急の治療が必要なものが少なくありません。特に、急激な痛みの場合は急性心筋梗塞や急性大動脈解離、肺塞栓症などの命に関わる病気の可能性もあります。
こんな背中の痛みには要注意!
- 急に背中が強く痛むようになった
- 手にしびれがある
- 痛みが3カ月以上続き、改善しない
- 体重の減少など、痛み以外の症状がある
上記のような背中の痛みや症状がある場合には、適切に医療機関を受診しましょう。
背中の痛みやこりを生じさせる行動
ここからは、背中の痛みの原因のなかでも特に多い筋肉疲労やこりについて説明していきましょう。
先ほども少しお話ししたように、背中の痛みにつながる筋肉の疲れは、スポーツや筋トレ、肉体労働だけで生じるわけではありません。日々の生活でついやってしまいがちなNG行動が筋肉の疲労を蓄積し、痛みやこりを生じさせることが多々あります。
具体的にどんな行動がNGなのでしょうか。
姿勢の悪さ
背すじを伸ばした「良い姿勢」の状態を保つのは意外と大変なもの。そのため、楽をしようと背中を丸めて猫背などの姿勢をとってしまいがちですが、実は背中を丸めた姿勢はかえって背中の筋肉に負担をかけてしまいます。結果的に筋肉の疲労やこわばりが強まり、背中の痛みやこりを発生させやすくなることもあります。
首に負担をかける枕の高さ
「枕が低いと眠れない」と、高めの枕を使っている人もいるでしょう。しかし、高すぎる枕は首に負担をかけます。首への負担や違和感が肩や背中のこりにつながることがあります。意外にあなどれない要因です。
スマホやパソコンを見るときの姿勢
スマホやパソコンを見るときに、ついとってしまいがちな「下を向いた姿勢」は首から背中への負担を大きくし、現代人の背中の痛みやこりの大きな原因になっています。プライベートはもちろん、仕事でもスマホやパソコンを長時間使用せざるをえないという人も多いでしょう。しかし、使う時間が長くなればなるほど、体への負担は積み重なって大きくなります。使用時の姿勢に気を付けて、首や背中への負担を少しでも減らしましょう。
運動不足
筋肉は動かさずにいるとこわばってしまい、疲労が生じやすくなります。運動不足で体を動かす機会が少ないと、筋肉のこわばりが進み、背中の痛みなどが発生しやすくなります。
喫煙習慣
たばこの煙に含まれるニコチン、一酸化炭素、一酸化窒素、シアン化水素、活性酸素などの化学物質には血流障害を起こす作用があります。したがって、たばこの煙を吸うと血液の巡りが悪くなり、筋肉のこりを引き起こす原因になります。
本人はたばこを吸っていなくても、周囲に喫煙者がいる場合、受動喫煙によって同じような影響を受けるため、注意が必要です。
背中の痛みやこりを予防! 効果的なセルフケアとは
筋肉の疲労が影響する背中の痛みやこりは、ひどくなる前にケアすることが大切です。「たかが背中の痛み」と思って放置していると、思いがけない不調につながってしまうかもしれません。
ここでは日常のちょっとした工夫でできるケアとストレッチをご紹介します。背中のこりが気になっている人は、無理のない範囲で試してみましょう。
背すじを伸ばす
背すじを伸ばし、肩甲骨まわりの筋肉をゆるめるような姿勢を意識するだけで、背中の筋肉への負担がやわらぎ、こりの予防につながります。
耳~肩が一直線上に来るように背すじをまっすぐにし、目線は少し遠くを見るようにします。肩甲骨を少し内側に寄せるように意識して。
適切な高さの枕を選ぶ
眠るときの枕は、首の自然なカーブが維持できる高さのものを選びましょう。高すぎて、あおむけになったときにあごを引いたような姿勢になるのはNGです。横向きになったときにも、頭が上がりすぎたり、下がりすぎたりしないようチェックしておくといいでしょう。
枕が低いと感じる場合は、タオルを下に入れるなどして高さを微調整するのも良い方法です。
日本人の一般的な睡眠時間は6~8時間、これは一日のうちの25~33%にあたります。つまり、枕を使う時間は意外に長いのです。高さを調整して、首や背中への負担を軽減させましょう。
肩回しストレッチ
肩を回すことで肩甲骨まわりの筋肉がほぐれ、血流が促されます。
- 背すじを伸ばして、手を肩に置きます
- そのままゆっくりと呼吸しながら、ひじを前から後ろに大きく10回ほど回します
- 後ろから前にも同じように10回繰り返しましょう。
肩を回しながら、ゆっくりと息を吸ったり吐いたりするのを意識しましょう。
痛みが出ない範囲で行ってください。
背中の痛みの主な原因である筋肉疲労は、運動やストレッチをしたり、日常の行動やクセを変えたりすることで予防や軽減につながります。日々の生活のなかで少しずつ意識して負担を減らし、痛みの発生を予防していきましょう。
ただし、なかには病気が原因で、すぐに対応しないと命に関わるような痛みもあります。痛みが強かったり、手のしびれなど痛み以外の症状があったりする場合は医療機関を受診するなどして、大切な身体を守ってくださいね。