痛みの雑学
日常に起こる筋肉疲労
すぐにできるリカバリー方法とは?
だるさや倦怠感が続いていたり、体が動かしにくかったりするなど、慢性的な疲れに悩んでいませんか? その原因は、日々の動作によって引き起こされる「筋肉疲労」にあるかもしれません。今回は筋肉疲労の原因や対処法について、国際武道大学教授の笠原政志先生に詳しくお伺いします!
- 監修:笠原政志先生
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国際武道大学体育学部体育学科および大学院武道・スポーツ科学研究科教授。学術博士(体育学)。日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー。 大学にて学生トレーナー教育を行いながら、現場に役立つ研究活動を行なっている。2015年にはAustralian Institute of Sport客員研究員としてスポーツ選手のリカバリー研究に従事し、現在は社会課題解決に向けて関係諸機関や企業と連携してスポーツ選手のリカバリー研究と実践活動を行なっている。スポーツ選手から一般の方々のヘルスリテラシーを高めるためのリカバリー(疲労回復)に関するメディア出演、講演、論文書籍など多数あり。
筋肉疲労はなぜ起こる?
そのメカニズムを知ろう
筋肉痛と筋肉疲労(筋疲労)の違いは、簡単に言えば筋肉に損傷があるかどうかです。筋肉に傷がつき、その結果として痛みが伴うものが筋肉痛。一方で、筋肉疲労は、筋肉自体に傷はないものの、腕や足など各部の筋肉を使いすぎることで血液の循環が悪くなり、うまく伸びたり、縮んだりできない状態を指します。筋肉のこわばりが起こることで、倦怠感を覚える、手が上がりにくくなる、歩くのが億劫になるといった症状が出てくるんですね。
筋肉疲労が起こる原因は大きく4つあり、1つ目は脳の疲労です。筋肉は神経の伝達によって動くため、脳が疲れると、筋肉への指令が伝わらなくなります。2つ目は、疲労物質の蓄積。誰でも経験があると思いますが、腕や足など頻繁に使う部位に疲労物質が溜まると、筋肉が疲労してうまく動かなくなったりしびれを感じたりします。
3つ目は、エネルギー不足です。筋肉を動かすためのエネルギーであるグリコーゲンが不足すると、筋肉疲労が起こりやすくなります。そのため、グリコーゲンのもととなる炭水化物や糖質を適度に摂取することは、筋肉疲労の回復につながります。4つ目は、筋肉の温度が高くなりすぎていること。同じ動作を繰り返すと筋肉が熱を持ち、うまく収縮してくれなくなります。こういうときは、熱をもった部分を保冷剤などで軽く冷やしてあげると楽になります。
これらの原因を理解し取り除くことで、筋肉疲労がとれて体がすっきりするのです。私たちの身体活動にはすべて筋肉が関わるため、筋力をつけたほうが疲労しにくくなるということも覚えておきたいですね。
日常生活の中で起こる筋肉疲労
筋肉疲労は、特定の筋肉を長く使い続けることで発生します。デスクワークや家事、運動など、日常生活の中で疲労物質が溜まりやすいシーンについて詳しく見ていきましょう。
ウォーキングやジョギングなどの運動
体を適度に動かすことは、筋肉の収縮を促し、血流を改善することにもつながります。しかし、それが長時間続いたり、普段よりも運動強度が高くなってしまうと、オーバーワークとなり、体が適応しきれず疲労が発生します。ウォーキングやジョギングを習慣にしている人も多いと思いますが、運動強度を上げ過ぎると筋肉痛や筋肉疲労が起こりやすくなりますので、適度な強度を保ちながら行うと良いでしょう。
長時間のデスクワーク
デスクワーカーは長時間同じ姿勢で作業を続けるため、肩や腰の筋肉が凝り固まりやすくなります。慢性的な肩こりや腰痛を抱えている人も少なくないでしょう。加えて、最近よく見られるのが、腕がこわばっていたり、腱鞘炎になったりしている人。
リモートワークにより、いままでよりもパソコンに向かう時間が増え、タイピングの量が圧倒的に増えたことで、腕や手首の筋肉が動きにくくなってしまっているんですね。
日ごろやり慣れていない作業
週末に草むしりをしたり、大掃除をしたり、普段使っていない筋肉を酷使することで、筋肉疲労が発生することもあります。
例えるなら、いままでずっと平坦な道を歩いていたのに、急に負荷のかかる坂道ばかり歩き始め、体が適応しきれなくなってしまったようなものです。急激な運動強度の上昇は、筋肉疲労の一因です。ですので、日ごろからの運動習慣が大切なのですね。
家事や子育てなど日常的な動作
重い荷物の上げ下ろし、赤ちゃんを抱っこするとき、ペットの散歩など、筋肉疲労は私たちの日常のさまざまな動作に隠れています。
筋肉疲労を予防するためには、頻繁に動かす部位をしっかりトレーニングやストレッチをしておくことが理想です。何か動作をするときに、体の一点に負荷が集中しないよう工夫することも、筋肉疲労の予防につながります。
リカバリー1
まずは、簡単ストレッチで疲労回復を促進!
疲労した体を元の状態に戻すには、筋肉を伸ばし、血行を良くすることで疲労物質の排出を促してあげることが大切です。筋肉疲労を感じたときは、次のようなストレッチをして体をメンテナンスしていきましょう。
デスクワークで起こる筋肉疲労を回復する上半身のストレッチ
手や腕の筋肉疲労を回復!
手首伸ばしストレッチ
- 手の平を上に向けて左腕を伸ばします。
- 指先を右手で引っ張って手首を曲げ、20〜30秒キープします。
- 甲を上に向けて左腕を伸ばします。
- 指先を右手で引っ張って手首を曲げ、20〜30秒キープします。
- 右手も同様に①〜④を行います。
あまりにも強い張りや使い過ぎによって熱を持った感じがある場合は、ストレッチをする前に、1分程度、手首や腕に保冷剤をあてるのもおすすめ。熱をとることで、より筋肉疲労が回復しすっきりします。
肩甲骨周りのコリも解消! 体側のストレッチ
- イスに座り両足を大きく開きます。
- 両手を上に上げ、右手で左手をつかみます。
- そのまま体を右側に傾けて伸ばします。そのまま20秒間キープします。前屈みにならないように注意!
- 反対側も同様に②〜③を行います。
デスクワークなどで同じ動作を繰り返すときは、30分から1時間に1回休憩を挟んで水分をとりましょう。脱水状態になると、体内に熱がこもってしまったり、血中の塩分濃度低下による筋けいれんを引き起こします。
下半身の筋肉疲労を解消するストレッチ
腰痛予防にもなるお尻のストレッチ
- イスに座り、右足首を左の太ももに引っ掛けます。
- 右膝と右足の裏をしっかり押さえて、上半身を腰から倒します。そのまま20秒間キープします。
- 左足も同様に行います。
太ももの裏側を伸ばすストレッチ
- 右足を一歩前に出し、かかとをつけてつま先を上げます。
- 右手で右股関節を押さえて、上半身を腰から倒します。そのまま20秒間キープします。
- 左足も同様に行います。
デスクワーカーに付き物の腰痛は、お尻の筋肉の凝り固まりからきていることが多いです。お尻のストレッチで筋肉をしっかり伸ばしてあげましょう。太もものストレッチもすることで、下半身全体の筋肉をほぐすことができます。
リカバリー2
目的に合わせて選びたい!
着圧ウェアの種類と違い
最近、注目を集めているのが着圧(コンプレッション)ウェア。腕や足などの筋肉にギュッと圧をかけて締めつけることで、筋肉を疲れにくくする効果があると言われています。半袖や長袖などのウェア型をはじめ、アームカバーやレッグカバー型、パンツ型などさまざまなタイプがありますが、大きくは2種類に分けられるのだとか。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
筋肉疲労を予防する「全体着圧タイプ」
1つは「全体着圧タイプ」です。これは、筋肉がブレたり無駄な動きをしたりしないように、着用場所に一定の圧をかけられるようになっている着圧ウェアのこと。筋肉を周りからギュッと圧迫して効率良く動かすことを目的としているため、スポーツや運動時の着用を推奨します。
疲労を軽減する「段階的着圧タイプ」
もう1つは「段階的着圧タイプ」。手先や足先などは圧が強く、未梢から中枢にかけて段階的に圧が弱まっていくように設計されていて、こちらも「全体着圧タイプ」と同様、筋肉の無駄な動きを抑えて疲れにくくする効果が期待できます。また、就寝時の着用も可能です。
着圧の効果をより効果的に得るには毎日の着用はおすすめしません。なぜなら、着圧された状態に慣れてしまうと、それ以上筋肉を使わなくてもいいと脳が判断してしまうからです。いつもより作業量や活動量が多いとき、体の倦怠感や重だるさを感じているときなど、目的に合った着圧ウェアを上手に活用したいですね。
リカバリー3
着圧の力で筋肉疲労の予防・軽減!
そのメカニズムとは?
なぜ着圧は筋肉疲労の予防・軽減に役立つのでしょうか? そのメカニズムについて簡単にご紹介します。
筋肉の余計な活動を抑えて疲労を軽減
筋肉は力を入れていないとたるんでしまいます。その状態から動かすと、筋肉の活動量が無駄に増えて疲労につながります。そこで、着圧によって外から圧をかけ筋肉を密集させて無駄な動きを減らすことで、筋肉を効率的に動かせるようにするだけでなく、エネルギー消費や疲労も最小限に抑えることができます。つまり全体着圧タイプのウェアには筋肉疲労の予防的効果があるのです。
つまり例えばですが重い物を運ぶときなどに着圧ウェアを活用すれば、同じ作業を80%程度の筋力でこなせるようになるということです。また、デスクワークであればアーム用の、通勤電車であればレッグ用の着圧ウェアを着けるなどすると各部位の筋肉の負担が減り、その後疲労しにくくなります。
筋肉に圧力を加えることで疲れにくくする
外から圧力を加えると、筋肉だけに限らず、血管にも圧力が加わります。特に足先から心臓にかけて段階的に圧が加わることで血液が勢いよく送り出されるため、血液循環が促され、疲労物質などの老廃物が排出されやすくなります。
とくに、「第二の心臓」といわれるふくらはぎの血液循環を良くしてあげると、筋肉疲労の回復を実感しやすいはず。
リカバリー4
筋肉疲労回復のカギは、入浴と睡眠
最後に、日常生活の中で筋肉疲労回復のためにできることをご紹介します。ポイントとなるのは「血行促進」と「脳を休めること」。
入浴で血行促進!
入浴によって体を温めることで、血流が良くなり硬くなった筋肉もほぐれます。より効果的な入浴方法としておすすめしたいのが、温かいお湯と水を順番に浴びる「交代浴」です。血管の収縮と拡張により血行が促進され、下半身の筋肉疲労が回復してすっきりします。全身の疲労を回復したいときは、銭湯などでサウナと水風呂を往復するのもおすすめです。
HOW TO「交代浴」
自宅では、湯船とシャワーを使った「交代浴」が可能です。
まず38~40℃程度のお湯に浸かり、その後、10〜20度の冷たい水のシャワーを足もとにかけます。これを2分ずつ、4セット繰り返します。
良質な眠りのために心がけたいこと
筋肉疲労の原因のひとつに脳の疲労が挙げられますが、脳の疲労を回復する唯一の手段は睡眠です。とくに、一番深い睡眠といわれている入眠初期の「ノンレム睡眠」で脳を完全にリセットすることが大切。スムーズに「ノンレム睡眠」を得るためのコツを3つお伝えします。
①寝る前にPCやスマホを見ない
入眠1時間前にはスマホやPC、テレビの電源を消し、脳を興奮させるブルーライトを浴びないように心掛けましょう。
②呼吸法でリラックス
寝る前に軽くストレッチを行うのもいいですし、リラックスするための呼吸法もおすすめです。
リラックスを促す4.7.8呼吸法
息を鼻から4秒間吸い、7秒間止めて、8秒かけて口からふーっと吐きましょう。
これを繰り返すことで、心身がリラックスし自然に眠気が訪れます。
③体温が下がったタイミングで布団へ
体温が下がる時に入眠しやすくなるので、温浴や交代浴をして一度体温を上げ、その後に体温が下がるタイミングで布団に入るのが望ましいです。暑い時期などは、氷枕などを活用すると体温が一気に下がって入眠しやすくなります。
この記事では筋肉疲労を回復させる方法をいくつかご紹介しましたが、まずは日常生活を振り返り、「脳の疲労」、「疲労の蓄積」、「エネルギー不足」、「オーバーワーク」など、筋肉疲労の原因を知ることが大切です。日ごろのストレッチや筋力をつけるトレーニングも、筋肉疲労の予防・回復につながりますので、イスに座って行うスクワットなど、簡単にできる運動を習慣化して、倦怠感や体の重だるさをリセットしていきましょう。