痛みの雑学
どんな時に冷やすべき?
知っておきたいアイシングの基本
ケガや筋肉痛、関節痛などを起こした時に、痛みをやわらげようと患部を冷やした経験はありませんか? これは「アイシング」と言って、広く知られる応急処置の一つです。とはいえ、その方法や効果を正しく理解している人は少ないのではないでしょうか。
そこで今回は、アイシングの基本知識から日常生活に役立つ使い方まで、整形外科医としてスポーツ外来を担当する傍ら、スポーツドクターとしてトップアスリートの治療やリハビリなどを行う、林光俊先生にお話を伺います。正しい知識を身につけて、日々の痛みのケアにアイシングを取り入れていきましょう!
- 監修:林光俊先生
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杏林大学病院整形外科(医学博士)、JSPO(日本スポーツ協会)公認ドクター。整形外科医としてスポーツ外来を担当する傍ら、スポーツドクターとしてスポーツ現場でトップアスリートの傷害治療と予防、リハビリ、コンディション調整を行う。1989年に日本代表男子バレーボールのチームドクターを担当して以来、オリンピック大会にも帯同するなど32年間にわたり選手のメディカルサポートを行ってきた。
実はよく知らない!?
アイシングの基礎知識
アイシングとは、外傷や筋肉痛、関節痛など炎症を起こしている部分を氷を使って冷やし、痛みや腫れを抑制しようとする行為です。
アイシングが必要な人は2タイプに分けられ、1つはケガや痛みなどの症状がある人。もう1つはスポーツなどで関節や筋肉を酷使し、明日のために疲労回復が必要な人です。どちらも共通しているのは、体の一部が熱を持っていること。人間の体は、1℃の変化が影響を及ぼす超精密機械のようなもの。熱を下げて体温を調節するためにも、アイシングが役立つのです。
アイシングによって期待できる3つの効果
アイシングには、「リラクゼーション」「神経の伝達を遅くする」「血管を収縮させる」という大きく分けて3つの効果が期待できます。
スポーツの現場ではあたりまえに用いられているアイシングですが、実のところ医学的な効果は不明な点も多く、スポーツドクターとしては、筋肉の緊張を和らげるためのリラクゼーション法の一つとして取り入れています。炎症して熱を持ったところを冷やすと気持ちが良い。それが身体にとって重要なことです。
ただ、アイシングによって痛み緩和の効果が期待できるのも事実。氷を当てて5~10分経つと、皮膚表面の温度が低下することで神経の伝達速度が遅くなり、痛みの感覚は鈍くなります。また、打撲などによって切れてしまった血管や毛細血管を収縮し、出血を減少させることで患部の腫れを抑えます。血管を収縮させることで出血を抑えられるのと同時に、血管の横を走る神経への圧迫も抑えられるので、痛みを防ぐこともできます。
知っておきたい応急処置の基本「RICE」
捻挫や打撲などケガをした時には、できるだけ早く局所を安静にして(Rest)、冷やし(Ice)、圧迫を加え(Compression)、高く上げておく(Elevation) ことがポイント。これらの処置は頭文字をとって「RICE(ライス)」と呼ばれ、応急処置の基本です。アイシングを最も有効に活用する手だてとして覚えておきたいですね。
Rest(安静)
肉離れや骨折などは無理に動かすと悪化させることに。できるだけ患部を固定し動かさないことが大切です。
Ice(冷却)
腫れた箇所をアイシングによって冷やすことで熱や痛みが広がるのを抑えます。
Compression(圧迫)
患部を圧迫することで、内出血したり腫れたりするのを抑えるのに有効です。
Elevation(挙上)
血流を減少させ出血や腫れを抑えるためにできるだけ患部は心臓より高く上げましょう。
アイシングをしたほうがいいケース
アイシングはとくに熱を持った急性の痛みに対して効果的です。熱を持っているということは、患部に炎症が起きているということ。その熱によって細胞組織が壊されてしまう前にアイシングすることで、細胞の活動を低下させ炎症を促進する物質の分泌を抑え、ダメージを最小限に減らすことができます。ここではアイシングが有効な代表的なケースをご紹介しましょう。
アイシングが有効なケース
捻挫
足首をひねるなど関節周辺に大きな力が加わった時に、骨と骨をつなぐ靭帯(じんたい)や、関節を包む関節包(かんせつほう)を損傷し、炎症が起きている状態。安静にしてアイシングを。
打撲
激しくぶつけるなどして皮膚や皮下、筋肉、血管などを損傷した状態。患部には内出血が起こり、腫れて動かすと痛みます。
筋力トレーニングや運動後
運動直後、熱感を持ち疲労を感じる筋肉を適度に冷やすことで、次の日の疲労が出にくくなります。
アイシングをした後は、神経が麻痺して痛みがやわらぐはず。その隙にストレッチをして、ダメージを受けた筋肉を伸ばしておきたいですね。ストレッチによって、新陳代謝を良くしてあげることで、翌日の疲れ方も変わってきます。
アイシングの正しい方法とタイミング
よく「家庭や学校などで、素人がアイシングをしても問題ありませんか?」と聞かれますが、正しい方法を知って実践するのであれば問題ありません。ここでは、アイシングの正しい方法についてご紹介しましょう。
家庭や学校で実践しやすい簡単アイシング
家庭に氷嚢(ひょうのう)がない場合、最も実践しやすいのは、スーパーマーケットなどにあるポリ袋を使う方法。
氷を入れたら袋に口を当てて、空気を吸い込みます。中の空気が抜けたら、袋の口をしっかり結んで、痛みや熱のある場所に当ててください。
そのほか、スタンドパウチ型のゼリー飲料のパックを再利用し、水を入れて凍らせる方法もおすすめです。厚い氷の塊ができるため溶けにくく、蓋つきなのでアイシング後は中の水も捨てやすいですね。また、容器を繰り返し使えるのも利点です。
アイシングの効果的なタイミングは?
正解は「できるだけ早く」。海で日焼けをした場合、家に帰ってから化粧水などでパックをするよりも、すぐにケアしたほうが、肌へのダメージを抑えられますね。アイシングも同じで、運動後、患部の熱がピークに達している時に行うことで、細胞組織のダメージや疲労の蓄積を軽減することができます。
アイシングを行う時間は?
アイシングは、1回につき15〜20分程度を目安にしましょう。皮膚の感覚は時間の経過とともに「冷たい感じ→ヒリヒリする感じ→しびれて感覚がなくなる感じ」と変化しますが、やめる目安は「しびれて感覚がなくなる感じ」になってから5分程度。ただし、すぐ熱感や痛みが出るようであれば再度冷やしても構いません。また、冷たくて不快に感じるような場合は、15分待たずに外してしまいましょう。
冷やしすぎはNG!アイシングの注意点
正しくアイシングをすると気持ちがいいものですが、やりすぎは厳禁。とくに、次のような場合は注意しましょう。
凍傷に注意を!
早く冷やしたいからとドライアイスを使ったり、長時間アイシングを続けたりすると、凍傷を起こす恐れがあります。アイシングには氷を使い、肌との間にタオルを挟むなどの工夫を。また、皮膚の感覚がなくなり5分程度したら切り上げることも大切。過剰な冷却を避けるため、睡眠中はなるべく行わないようにしてください。
冬場のアイシング
アイシングは「運動後なるべく早く行ったほうが効果的」ですが、冬場に外で一定時間アイシングをするというのは、現実的ではありません。暖かい室内に戻ってからでも、十分に効果が期待できますので、無理をしないように行いましょう。
アイシングに向いていない人
糖尿病やアルコール性末梢神経炎など局所の知覚神経鈍麻、リュウマチ、レイノー症(寒さや緊張で指先の細い動脈が発作的に収縮する症状)などを患っていて、血液の巡りが悪い人は、アイシングに向いていません。また、冷たいものや冷えた空気によって皮膚が急激に冷やされることで発症する「寒冷アレルギー」を持っている人も、アイシングは避けたほうがいいでしょう。
日常の痛みにもアイシングを活用しよう
アイシングは、スポーツによるケガや痛みの症状だけでなく、日常的な痛みの症状にも役立ちます。アイシングが有効な身近な3つの症状についてご紹介しましょう。
ぎっくり腰
ぎっくり腰などの急性の腰痛になって3日間は、炎症が強く起こります。なるべく安静にして、アイシングで腰を冷やすと痛みがやわらぎます。その際、氷がゴツゴツと当たって余計に痛みが増す可能性がありますので、サイズが大きくて平らな「冷却まくら」などを使って冷やすのがおすすめです。
ちなみに、慢性腰痛の人は、痛みのある箇所を冷やすとかえって血の巡りが悪くなってしまい、逆効果ということもありますので注意が必要です。
寝違え
目が覚めたときに、首の後ろや首から肩にかけての痛みが出る「寝違え」。不自然な姿勢で寝るなど無理な負担がかかったことで、筋肉が炎症を起こしている状態です。ひどい時は激しい痛みや熱を伴うことがありますが、アイシングをすることで一時的な痛みの緩和が期待できます。
腱鞘炎
指の付け根などに痛みや腫れが起こる症状でもともとスポーツをする人に多く見られましたが、最近はスマホやパソコンなどで手を酷使するなど一般の人にも増えています。
おすすめは、アイスやケーキなどを買ったときについてくる小さな保冷剤で行うプチアイシング。仕事や家事に影響が出ないよう、早めにケアをしましょう。
冷却スプレーやジェル剤、冷シップなども活用を
スポーツの現場では、痛みをやわらげるために、冷却スプレーやジェル剤なども応急処置としてよく用いられます。その後、冷シップを貼れば相乗効果で回復を早める効果も期待できます。
アイシングでケガが完治することはありませんが、患部を落ち着かせ痛みをやわらげることで、翌日以降のダメージや疲労を軽減することにつながります。この記事では基本的な知識や方法をご紹介しましたが、アイシングのタイミングや時間は患部の症状や環境によってケースバイケース。あくまで「自分が心地いいところで止める」ことを意識して実践しましょう。