痛みと向き合うはじめの一歩

ツボってそもそも何だろう?
痛みに効くツボのお話

Vol.3ツボってそもそも何だろう? 痛みに効くツボのお話

東洋医学の思想から生まれたツボ

人体にあるツボ。みなさんはどんなイメージをお持ちですか?「ツボがあるのは知ってるけど、どこにあるの?」「押すと痛かったり気持ち良かったりするところ。でもどんな効果が…?」などなど、ツボの正確な位置や効果について、実はよくわかっていないという人も少なくないのではないでしょうか?

今回は、「ツボとは何なのか?」というツボの基本知識から「痛みに効くツボ」とその実践法まで、東京有明医療大学 保健医療学部 鍼灸学科の川嶋朗教授に教えていただきました。

監修 : 川嶋朗(かわしま・あきら)教授

監修 : 川嶋朗(かわしま・あきら)教授

東京有明医療大学 鍼灸学科 教授

1957年生まれ。北海道大学医学部卒。東京女子医科大学大学院修了ののち、ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院へ留学。東京女子医科大学准教授を経て、東京有明医療大学教授にいたる。「温めるツボがわかれば健康になる」(共著)、「『無理する自分』を捨てれば病気は逃げてゆく」、「自癒力」など著書多数。

そもそも「ツボ」とは? その由来や原理を知る

実は、ツボというのは実体がないんです。私も大学時代、解剖学の実習で一生懸命に探しましたが、見つかりませんでした(笑)。といっても、もちろん、存在しないわけではありません。
みなさんも、痛いところをさすったり押したりして、楽になった経験がありませんか? 昔の人たちも本能的にそうするうちに、ある場所を刺激すると痛みが治まるなど、さまざまな効果があることに気づいたのでしょう。経験の蓄積によって、効果のある位置や扱い方が確立されたものが「ツボ」なのです。その効果はすでにグローバルに認められていて、現在、361のツボがWHO(世界保健機関)によって定められています。

ツボは、東洋医学の「気」の概念に基づくもの

ツボは、東洋医学の「気」の概念に基づくものなんです。東洋医学では、気とは生命エネルギーそのもの。目に見えませんが、体を構成し、生命活動を維持する重要な働きがあります。健康とは、気が正常に生み出され、体内を規則正しく巡っている状態のことで、気が不足したり滞ったり、逆行したりすると、バランスが崩れて病気になるのです。「病は気から」とは、このことなんですよ。

気は、体内に張り巡らされている「経絡(けいろ)」を通って、臓腑や筋肉、皮膚に働きかけます。経絡には気の出入り口である「経穴(けいけつ)」があり、これがいわゆるツボ。ツボは経絡に沿って、全身に点在しています。ツボを刺激することで経絡を流れる気を調整でき、気の流れがスムーズになると、経絡とつながる臓腑が活性化されて、体調が整うというわけです。このようにツボや経絡を利用した治療法として、針や灸でツボを刺激する鍼灸、指でツボを刺激する指圧などがあります。

体内に張り巡らされている「経絡(けいろ)」

悪いものを取り除いて治そうとする西洋医学に対し、東洋医学は、自然の摂理に従って、体全体のバランスをとることで健康になれると考えます。病原微生物のように原因が明らかなものや、手術で治せる大きなケガなどは西洋医学が有効ですが、原因不明の症状となると、西洋医学で解明できない時もあります。そんなとき、鍼灸などの東洋医学が大きな力を発揮するんですよ。

鍼灸などの東洋医学が大きな力を発揮

「痛みに効くツボ」はどのようなものがあるのだろう?

基本的には、頭痛に効くツボは頭、腰痛に効くツボは腰というように、痛みがあるところに、その痛みに応じたツボがあります。また、肩がこって痛いときに肩を押したり揉んだりすると楽になるように、触れると症状が改善するところも、たいていはツボです。実際、肩には「肩井(けんせい)」や「肩髃(けんぐう)」など、肩こりに効くツボがたくさんあります。

「痛みに効くツボ」はどのようなものがあるのだろう?

また、ツボは患部から離れたところにもあります。たとえば片頭痛のとき、足の甲にある「足臨泣(あしりんきゅう)」というツボを押すと楽になるんです。面白いでしょう(笑)。これは、足臨泣と側頭部が「足少陽胆経(あししょうようたんけい)」という経絡でつながっているからなんですね。

中には即効性があり、痛いときはまず、ここを押せばいいというレスキュー的なツボもあります。たとえば腰痛は、慢性的な腰痛からぎっくり腰まで「腰腿点(ようたいてん)」というツボがとてもよく効きます。また、肩がこって肩や腕が痛いときは「曲池(きょくち)」と「手三里(てさんり)」が有効です。手や腕にあるツボなので押しやすく、腰や肩をもみほぐすのと同じ効果がありますよ。
ツボはたくさんありますが、その中から代表的なツボをいくつか覚えておくだけでも、普段の健康管理に役立つでしょう。

今日から実践! 自宅でもできるツボ押しを覚えよう

クリニックでさまざまな症状の患者さんを診ている川嶋先生。中でも特に多い「頭痛」「腰痛」「肩こりの痛み」に効くツボの実践法を教えていただきました。まずはツボの押し方から。

今日から実践! 自宅でもできるツボ押しを覚えよう

ツボの大きさは、大きいものでも米粒大くらいです。見つけるにはまず、大体の見当をつけて、そのあたりを押してみましょう。ツボに当たると、イタ気持ちいいと感じます。

ツボを押すときは、指の腹で垂直に押します。強さは、気持ちいいと感じるくらい。かるくで十分です。3~7秒くらいかけてゆっくり押し、ゆっくり戻しましょう。回数は1日4~5回が目安。押した直後に痛くなったり、押したところがあざになったりしたらやり過ぎです。「このくらいがちょうどいい」と自分で見極めることも大切ですよ。

それでは、痛み別のツボを教えてもらいましょう。

頭痛に効くツボ

1. 太衝(たいしょう)

太衝

特に前頭部や額が痛いときに。位置は、足の親指と人差し指の骨の間を甲に向かって探っていき、親指と人差し指の骨が交わる、少し盛り上がった部分。触れると脈を感じます。手の人差し指でこねるように回しながら押しましょう。

2. 足臨泣(あしりんきゅう)

足臨泣

偏頭痛や側頭部が痛いときに。足の甲の薬指と小指の間から、足首の方へ約3㎝たどったところにあるくぼみ。薬指と小指の骨が交わる手前にあります。手の人差し指でこねるように回しながら押しましょう。

肩こりに効くツボ

3. 曲池(きょくち)・4. 手三里(てさんり)

曲池・手三里

肩こりによる肩や腕の痛みに。曲池と手三里をあわせて刺激すると、より効果的です。曲池は、腕を直角に曲げ、肘にできるシワの外側の端にあります。反対側の手でつかむようにして親指の腹で押しましょう。手三里は、曲池から親指方向へ指3本分移動したところ。曲池と同様に押します。

腰痛に効くツボ

5. 腰腿点(ようだいてん)

腰腿点

慢性・急性の腰の痛みに。手の甲にあり、人差し指と中指の股から手首のシワまでの中間と、薬指と小指の股から手首のシワまでの中間の2か所にあります。手の人差し指を立てて、骨と骨の間をぎゅっと強めに押します。

指で押すだけでなく、つまようじを10~15本くらい束ねて尖っている方をツボに押し当てるのもいいですし、あるいは、ドライヤーの温風をツボに当てるのも良い方法です。温風はお灸効果があり、周辺のツボもまとめて刺激することができます。やり方は、肌から5~10㎝くらい離して、ドライヤーの低温風を当てるだけ。「熱い!」と感じたら、すぐ離します。他人にしてもらうと火傷するので、必ず自分で行いましょう。

生活を見直してみることで、症状が少しずつ改善されていくかもしれません

東洋医学では、表に出ている症状だけでなく、患者さん全体を診て治療方針を決めます。その症状は、実は、生活習慣やストレスから来ていることも少なくないからです。みなさんも痛いときは「何が良くなかったのかな?」と生活を見直してみることで、症状が少しずつ改善されていくかもしれませんよ。

実体はなくても存在する。そんな不思議なツボのお話に引きこまれてしまいました。はるか昔から現代にまで受け継がれ、世界にも広まっているツボ療法。私たちも手軽に取り入れることができます。東洋医学の考えにならい、体のバランスを整えることを意識しながら、気になるツボ押しを試してみませんか?

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