痛みと向き合うはじめの一歩

イチから学ぶ、筋肉痛のメカニズム

Vol.3イチから学ぶ、筋肉痛のメカニズム

筋肉痛予防のカギは、運動前のストレッチと生活習慣にあり

運動不足を解消しようと急に体を動かしたり、いつもよりトレーニングを頑張ったり、不慣れな運動や激しい運動をした後に、ツライ“筋肉痛”に見舞われたことはありませんか? 筋肉痛は誰もが一度は経験したことがある身近な症状ですが、その原因について知る人は少ないかもしれません。

そこで今回は、筋肉研究の第一人者である、早稲田大学スポーツ科学学術院教授・ヒューマンパフォーマンス研究所所長の川上泰雄先生に、筋肉痛のメカニズムについて、また予防法と正しい対処法についても教えていただきました。

監修 : 川上泰雄(かわかみ・やすお)教授

監修 : 川上泰雄(かわかみ・やすお)教授

早稲田大学スポーツ科学学術院教授
ヒューマンパフォーマンス研究所所長

1988年に東京大学卒業後、同大学院修士課程修了。同大学助手、助教授を経て、2003年早稲田大学助教授、05年より現職。主にバイオメカニクスや運動生理学の視点から身体運動の仕組みに迫るための研究を行う。また、日本人の生活習慣と体形、認知機能の関係を探求。iPhoneアプリ「メタボウォッチ」開発者。

筋肉痛はなぜ起こる? その原因を知ろう

筋肉痛は、筋肉に負荷がかかったとき、筋肉を構成する筋線維に細かい傷がつき、それを修復しようと炎症が起きている状態です。たとえば、引越しで1日作業したり、山へハイキングに行ったりした次の日などに、筋肉痛になることがありますよね。重い荷物を降ろす動きや、坂を下りる、階段を下りるといった動きは、筋肉が引き伸ばされながら力を発揮する運動、つまりは大きな力にブレーキをかけるような動きです。このとき筋肉に大きな負荷がかかり、筋線維や周りの結合組織が傷ついてしまうのです。

筋肉痛はなぜ起こる?その原因を知ろう

筋肉痛には「即発性筋痛」「遅発性筋痛」の2種類があります。アスリートが自転車を思い切りこぐようなトレーニングをしますが、こうした激しい運動をした直後や、早ければ運動の最中に起こるのが「即発性筋痛」。筋肉を集中的に使うことで発生する疲労物質が、痛みを引き起こします。一方、運動した数時間から数日後に痛みが起こるのが「遅発性筋痛」。通常は1〜3日間ほどで緩和していきます。私たちが普段の生活で経験する筋肉痛のほとんどがこの「遅発性筋痛」です。

遅発性筋痛

痛みをガマンして鍛えるのは逆効果? 筋肉痛との上手な付き合い方

筋肉を鍛えている人の中には、「筋肉痛が出てこそ効果がある」と考えている方も多いですよね。それはある意味正しいと思います。トレーニングによって筋肉に負荷をかけ、筋線維の損傷が起こると、修復過程で次のストレスに備えて筋肉が太く強くなろうとします。これを「超回復」と呼び、筋力アップや筋肉肥大へとつながります。
とはいえ、筋肉痛を我慢しながら、無理にトレーニングを続けるのは逆効果です。筋肉が十分に回復することができず、「超回復」を妨げてしまいます。トレーニング効果を最大限に引き出すためには、強度の高い運動後は1〜2日空けて休息を取るようにするといいでしょう。筋トレは、毎日するよりも週3くらいのペースで行うのがおすすめです。

痛みをガマンして鍛えるのは逆効果? 筋肉痛との上手な付き合い方

筋肉を鍛えている人は、筋肉痛にもなりにくくなります。面白いことに、筋肉は損傷から回復する過程を一度経験すると、それを覚えていて、次の筋肉痛を防御しようとするからです。そのため、良く運動している人は、その抵抗力がいろんな筋肉について筋肉痛になりにくくなるんです。ただし、一度抵抗力がついても、しばらく運動しなければその効果は消えてしまうので、継続してトレーニングすることが大切です。

冷やす? 温める? 筋肉痛の痛みを和らげる正しい対処法

筋肉痛を早く治すためには、先ほどお伝えした通り、痛みが続いている間は無理をしないこと。また、炎症を抑えるためには、冷やすのも良いでしょう。ただし、運動直後に限ります。筋肉の回復を助けてあげるには、むしろお風呂などで温める方が効果的です。

冷やす?温める?筋肉痛の痛みを和らげる正しい対処法

筋肉はたくさんの血管に守られていて、その血管が筋肉に栄養を持ってくると同時に疲労物質や発痛物質などを流し出すパイプの役割も果たしています。つまり、血管内を通る血流を良くすることで痛みを軽減し、回復を促すことができるのです。筋肉痛になったとき、じっとしているよりも、普段どおりに動いている方が早く楽になったことはありませんか? これも同じことで、無理のない範囲で筋肉を動かしてあげる方が血流は良くなるのです。
ただ、ひどい損傷が起きて、痛みが激しかったり、ハリや腫れが続いたりする場合には、むやみに温めるのは危険な場合もあるので、病院で診てもらうようにしてください。

下半身の筋肉痛を予防する3種の簡単ストレッチ

普段運動をしていない人は筋肉が細く弱いため、急に激しい運動をすると負荷に耐えることができず、筋肉痛になりやすくなります。筋肉痛を予防するためには日頃から体を動かして、筋肉を使っておくことが大切です。
また、運動の前には“ウォーミングアップ”として、ストレッチを行うのがおすすめ。筋肉だけでなく、筋肉と骨をつなぐ結合組織、腱(けん)の緊張をほぐし、柔軟性を高めてあげることで、筋肉に対する負荷が減り、筋線維の損傷が起こりにくくなります。
ここでは、日常的によく使う、ふくらはぎと太ももの筋肉のストレッチをご紹介します。
簡単な動きなので、運動に不慣れな方や高齢の方でも取り入れやすいのではないでしょうか。ポイントは決して無理をしないこと。少しハリを感じるあたりで止めるのがいいでしょう。やり過ぎは筋線維を傷つけてしまう恐れがあるので気をつけて下さい。

1. ふくらはぎの筋肉を柔軟にする「アキレス腱伸ばし」

ふくらはぎの筋肉を柔軟にする「アキレス腱伸ばし」

脚を前後に大きくひらいて立ち、両足裏は床につけたまま、片方の膝を曲げ、もう片方の脚を後ろに引いてアキレス腱を伸ばす。10秒間キープした後、反対も同じように行う。

POINT
反動はつけず、筋肉と腱をジワーッと伸ばすようなイメージで。筋肉が気持ちよく伸ばされている、という感覚を保つことが大切です。

2. ももの表側の筋肉を柔軟にする「大腿四頭筋伸ばし」

ももの表側の筋肉を柔軟にする「大腿四頭筋伸ばし」

一方の脚を伸ばし、もう一歩の脚を曲げて座り、ゆっくりと上体を後ろに倒す。このとき曲げた方の足のつま先が真後ろを向くように。10秒間キープした後、反対も行う。

POINT
体の柔らかい人は寝た状態で行ってもOK! 気持ちよい程度のストレッチを行いましょう。

3. ももの裏側の筋肉(ハムストリングスや内転筋)を柔軟にする「開脚前屈」

ももの裏側の筋肉(ハムストリングスや内転筋)を柔軟にする「開脚前屈」

背筋を伸ばして床に座り、脚を大きく開いたら、手を伸ばして上体を前に倒す。そのまま10秒間キープする。

POINT
できるだけ膝を曲げないようにしたいが、決して無理はしないこと。

上半身の筋肉痛予防には「可動域を広げること」を意識して

上半身の場合は動きが複雑で大きいので、伸ばしたい筋肉を意識するようにしましょう。肩甲骨を寄せて胸を開いたり、腕を大きく回したり、関節を動かして可動域を広げることを意識してみましょう。筋肉を支える軟組織をほぐすことも筋肉への負荷を減らす効果があります。

筋肉痛になりにくい、太くしなやかな筋肉を目指しましょう

筋肉痛にならないため、そして筋肉痛になったとき回復を早めるためには、日頃の生活習慣も大きく関わってきます。心がけたいことの一つは、まず水分をきちんと摂ること。とくに高齢者の方は脱水症状になりやすいので、普段から意識して水分を摂るようにしてください。脱水症状になってしまうと、血流や代謝が悪くなり筋肉の回復も進みにくくなります。

筋肉痛になりにくい、太くしなやかな筋肉を目指しましょう

日頃から3食バランスの良い食事をとることも大切です。とくに筋肉を作るのに必要な「たんぱく質」は、朝・晩、意識して摂りたい栄養素です。大豆製品などの植物性でも、卵や肉などの動物性でもどちらでも構いません。さらに、筋肉の代謝を助けるビタミン類が含まれる緑黄色野菜や果物も適宜摂るように心がけましょう。

意外かもしれませんが、心理的、精神的なストレスも筋肉痛に影響します。ストレスは筋肉の緊張状態を高めるだけでなく、痛みを感じやすくさせてしまうのです。疲れがたまらないようにすること、睡眠不足にならないように注意することも大事ですね。

目指すべきは筋肉痛になりにくく、回復の早い、太くしなやかな“いい筋肉”です。まずは毎日の生活を見直し、少しずつ体を動かすことから始めてみるといいと思います。

いざ「運動をするぞ!」と意気込んでも、筋肉痛になり継続できなくなってしまっては本末転倒です。運動不足が気になる方は、まず日頃から体を動かすことを心がけ、無理のないペースで少しずつ筋肉を鍛えていくようにしましょう。いつまでも元気に動ける体でいるためにも“いい筋肉”を目指したいですね!

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