胃にはどんな
トラブルがある?

​胃もたれ、胃痛、胸やけ、吐き気・むかつきなど、いろいろな胃の不調・不快感があります。
もちろんそれぞれの症状によって胃の状態や原因もさまざま。
胃はどのようなメカニズムでトラブルを起こすのでしょうか。

胃がもたれる

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​「胃もたれ」とは、胃が重苦しく感じられる状態をいいます。
おなかが膨れた感じの「膨満感」を伴うことも多く、人によっては、胸がつかえたり、吐き気をもよおしたりするようです。
このような胃の「もたれ」は、主に胃の蠕動運動が弱くなったり、胃液の分泌量が減ったりして、食物がいつまでも消化されないために起こります。

​​胃の蠕動運動が弱くなるのは、加齢による衰えのほか、ストレスなどによる精神的な緊張、食べ過ぎ・飲み過ぎなど、胃に過度な負担がかかることによって起こります。
胃の働きが低下すると、食物がなかなか十二指腸へ送り出されずに胃に停滞してしまい、いわゆる「もたれ」の状態が現れるのです。

また、胃液の分泌量の減少は、一時的なストレスによって自律神経のバランスが乱れることから起こったり、加齢による胃の分泌機能の衰えから起こったりします。

胃が痛い

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​「胃の痛み」は、知覚神経が刺激されることによって起こります。
胃には、筋層や粘膜下組織に栄養を与える血管が豊富に分布し、その血管に絡まるように知覚神経が分布しています。
胃粘膜が炎症を起こしたり、胃の筋肉組織が急激に引っ張られたりすると、こうした知覚神経が刺激され、痛みを感じるのです。

​​胃粘膜の炎症による胃の痛みの原因は、ほとんどが胃酸によるものと考えられます。
胃酸はpH1~2の強烈な酸で、亜鉛などの金属さえも溶かすほどです。
ストレスや食べ過ぎ、飲み過ぎなどによって、胃酸が増えたり、粘液の分泌が減ったりすると、胃粘膜は胃酸の強い力に負けて炎症を起こしてしまいます。
炎症が起きると、知覚神経の末端が刺激され、それが痛みとなって現れるのです。
こうした場合は、シクシクする痛み、キリキリする痛みなどが特徴的です。

胃の痛みは、重篤な病気がもとで起こっている場合もあります。
注意しなければいけない痛みは下の図のようなものがあります。
腹部に強い痛みがあったり、あるいは強い痛みが継続して起こったりするような場合は、胃以外の重篤な病気に起因していることもあるため、早めに医療機関を受診する必要があります。

痛みの箇所(場所)と
疑われる疾患

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​このほか、胃の筋肉が強く緊張することで、発作的に差し込むような強い痛みの症状が現れます。
「胃けいれん」と呼ばれるもので、これには、自律神経が深くかかわっていると考えられます。
胃壁の筋肉組織は、自律神経によってコントロールされていますが、ストレスなどによって自律神経のバランスが崩れると、筋肉の動きが異常になることがあります。
そのときの筋肉がねじれたり、引っ張られたりする動きで、血管や知覚神経が強く刺激されて、キリキリとした痛みになるのです。

​​このような「胃けいれん」は、胃炎や消化性潰瘍などの症状のひとつとしても起こります。
また、胃以外の「胆石症」や「膵炎」などの病気でも起こることがあります。

胸やけ

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​「胸やけ」とは、みぞおち辺りから胸にかけて感じる、焼けるような不快な症状を指します。
主に食道の粘膜が、胃から逆流した胃酸によって刺激されることで起こります。

​​胃の中と違って食道の粘膜は酸の刺激に対して強くありません。
胃酸が過剰に分泌されていたり、げっぷなどで胃の内容物が食道へ逆流したりすると、それに含まれる胃酸で食道の粘膜が刺激を受け、胸やけを感じるのです。

とくに、アルコールやたばこなどの刺激物、ストレスなどによって、胃酸が過剰に分泌されているときに起こりやすくなります。
また、糖分やイモ類、脂肪分の多い食物などは胃酸分泌を過剰にしやすい食材です。
胃酸が増えると、内容物が食道に逆流しやすくなるため、胸やけが起こりやすくなるのです。

こうした胸やけは、このほかにも胃炎、胃・十二指腸潰瘍などの病気から起こる場合もあります。

胸やけがたびたび起こる、胸が強く痛む、口の中に酸っぱい液がこみ上げる、げっぷが頻繁に出るなどの症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

酸に弱い食道粘膜は、くり返し胃酸の刺激を受けると、食道の粘膜がただれて炎症を起こしてしまいます。
これが「逆流性食道炎」です。
「逆流性食道炎」は、脂っこい食事を好む人、ストレスの多い人、高齢者などがなりやすい病気です。

吐き気・むかつき

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​「吐き気」とは、胸の辺りがムカムカして、胃の内容物を吐き出したいという不快感がある状態をいいます。
この症状が進んで、実際に吐き出してしまうのが「嘔吐」。
吐き気も嘔吐も、何らかの原因で、脳の延髄にある嘔吐中枢が刺激されることによって起こります。

​​普通、胃に食物が入ると、胃の入口である噴門は閉じられ、食物が逆流しないようになっています。
しかし、嘔吐中枢が刺激されると、その刺激が神経を通って、腹部、胸部、食道、のどなどの筋肉に伝えられ、胃では、出口である幽門が閉ざされ、反対に入口である噴門が緩みます。
それと同時に、横隔膜や腹筋が収縮して胃に圧力がかかり、胃自体も逆の蠕動(ぜんどう)運動を起こすことで、胃の中の物が逆流して勢いよく外に出るのです。

このような吐き気や嘔吐は、食べ過ぎや飲み過ぎで胃の働きが低下したり、異常を起こしたりして、長く停滞し過ぎた胃の内容物が刺激となって起こる場合や、胃などで起こった炎症や潰瘍が刺激となって起こる場合などがあります。

また、腐った物や刺激の強い物、大量のアルコールなど、体にとって有害な物が胃に入ると、それが刺激となって嘔吐が起こることがあります。
これは、有害なものを排除するという生体の防御反応といえるでしょう。

胃が弱い

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「胃が弱い」「胃弱」という言葉は、胃の調子が悪い、食欲がないようなときに、よく使われます。
このような胃の状態は病気とは言いにくいものですが、体質、精神的なストレス、不規則な生活、夏バテなどが原因で、胃の働きが低下している場合が多いもの。
とくに消化不良になると、胃もたれのほか、食事中や食後などに、胸やけやげっぷ、おなかの上のほうの膨満感、または吐き気などをもよおすことがあります。

最近では、胃もたれや胃の痛みなどの自覚症状があるのに、検査をしてみると、胃には潰瘍やがんなどの病変が認められないといった症状が知られており、長期間にわたって続く状態を、「機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia:FD)」と呼びます。
「機能性ディスペプシア」の自覚症状は、胃もたれやすぐおなかいっぱいになってしまう早期膨満感などの症状と、胃の痛みや胸やけなどの症状とに分けられます。

原因は明確になっていませんが、脂っこい食事、ストレスなどによるものと考えられ、内視鏡検査を受ける人の、実に半数は機能性ディスペプシアの可能性があるといわれています。

【参考】『目で見るからだのメカニズム』(堺 章著;医学書院)・『胃腸ケア・ガイドブック』(興和新薬株式会社)