痛みの雑学
筋トレが続かない人必見!
効率よく筋力アップできるウォーキング法について解説
運動を始めたいと思いながらも、ジムに通う時間が取れない、習慣化が難しいと感じている方は少なくありません。そんな方にとって、仕事の行き帰りや家事の合間など、日常生活の中で無理なく取り組めるウォーキングは一つの選択肢です。
本記事では、『最高の歩き方 やせる!若返る!疲れにくくなる!』の著者・能勢博さんに、歩き方を少し工夫するだけで、筋力アップや体力向上、生活習慣病の予防まで期待できるウォーキング法についてお話を伺います。
- 能勢 博さん
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医学博士。信州大学医学部特任教授。京都府立医科大学医学部卒業後、同大学助手、米国イェール大学医学部博士研究員、信州大学教授を経て現職。ウォーキング研究の第一人者として「インターバル速歩」を提唱し、約1万人に指導。テレビ出演多数で、主な著書に『ウォーキングの科学(講談社)』『最高の歩き方 やせる!若返る!疲れにくくなる!(世界文化社)』がある。
年を重ねると疲れやすくなるのはなぜ?
若い頃と比べて、疲れやすくなったと感じることはありませんか? 人間の体力は20代前半にピークを迎え、30代以降は、10歳ごとにおよそ5~10%ずつ低下していきます。衰える速度は人によって異なりますが、65~75歳くらいになると自分の体を支えきれず、自立した生活を送れなくなる“体力のボーダーライン”とされる「機能不全閾値(きのうふぜんいきち)」を下回る人が多いのが現状です。
このような加齢現象が起こる原因は「筋肉量の低下」にあります。最近では、筋肉量の低下が、糖尿病や高血圧などの生活習慣病から、がん、うつ病、認知症に至るまで、さまざまな病気の根本原因になることがわかってきているのです。また、肩・腰の痛みや疲れのほか、目立った症状はないけれどなんとなく体調が優れない「未病」と呼ばれる状態にも、筋肉量の低下が大きく関わっているとされています。

※参考「最高の歩き方 やせる!若返る!疲れにくくなる!(世界文化社)」より
加齢による体力の衰えを止めることはできませんが、筋力をアップすることで、“体力のボーダーライン”に差し掛かるまでの時間を緩やかにすることができます。スタートが早ければ早いほど、筋肉を強く大きくでき、元気でいられる時間が長くなるのです。
“1日1万歩”は効果が出ない?
運動に必要な負荷とは
運動すべきとは感じながらも、普段から運動習慣を取り入れられていない人は多いもの。厚生労働省が令和5年に実施した「国民健康・栄養調査」によると、20歳以上で運動習慣のある人の割合は、男性で 36.2%、女性で28.6%に留まっています。
また、同省が作成した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」でも、「身体活動不足と長い座位時間は、糖尿病、運動器障害などの健康リスクを高め、腰痛や肩こり、頭痛につながりやすい」と指摘されています。
能勢さんの元にも、運動習慣に関する悩みが数多く寄せられているそうです。中でも多いのが、1日1万歩歩いても効果がない、という相談。効果が出ない理由は、1日1万歩の場合、ダラダラ歩きになりがちで、体力の30~40%程度の負荷しかかからないからなのです。
体力をつけるためには、ややきついと感じる、自分の体力の70%程度の運動を、週合計60〜90分行う必要があります。ここでいう“70%程度の運動”とは、“2分くらいやって、もうやめたいな”と感じる運動。体力は一人ひとり異なるため、主観的な感覚になってしまうのですが、例えば、2人以上で並んで歩いた時になんとか短い会話ができる程度のものです。これを5〜6ヶ月続けることで、体力が10%アップすることが明らかになっています。
筋トレと同等の効果を得られる「インターバル速歩」とは
「ややきついと感じる運動」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、スポーツジムでマシンや道具を使う筋力トレーニングではないでしょうか。しかし、このような筋トレは、お金がかかったり、1人で黙々と続けるのが難しかったりといった理由で、なかなか継続できません。
そこで、よりリーズナブルかつ、健康面で効果の高い運動としておすすめなのが“インターバル速歩”です。一般的なウォーキングとの違いは、運動強度に重点を置いていること。継続して実施することで、筋力と持久力がバランス良く向上し、早ければ2週間後から、体重の減少や血圧の低下といった効果を実感することができます。
能勢さんの研究チームでは、約1万人に、インターバル速歩を1日30分、週4日以上、5ヶ月間実施してもらい、データを取得。その結果、全体平均で体力が15%向上したほか、生活習慣病の症状が20%以上改善し、うつ病や認知障害の症状も30%以上改善したことが明らかになったそうです。
「インターバル速歩」のやり方は?
インターバル速歩は、簡単に言えば、早歩き3分+ゆっくり歩き3分を繰り返すウォーキング法です。ポイントは、早歩きの時に、自分の体力の70%程度の速度で歩くこと。3分間早歩きをしたら、普段と同じくらいか、やや遅いくらいの速度のゆっくり歩きに切り替えます。
胸のドキドキや、息の弾みが治まってくるのを感じながら、「足腰に痛みはないか」「このまま続けても大丈夫か」など、全身をチェックしてみましょう。ゆっくり歩きを3分続けたら、再び早歩きに切り替えます。
「インターバル速歩」で大切な3つのポイント
能勢さんによると、インターバル速歩を行う際のポイントは、大きく下記の3つ。それぞれ詳しく見ていきましょう。
- 姿勢を良くする
- 腕を大きく振る
- 大股で歩く
1つ目は、姿勢を良くすること。歩き始める前に、頭の後ろにタオルを当てて、両手で引っ張ってみてください。こうすることで、胸がグッと張り、良い姿勢を作れます。そのまま、25メートル先の地面を見るイメージで歩くと、良い姿勢を保つことができます。

2つ目は、腕を大きく振ることです。例えば、左足が前に出る時は、右腕を90度曲げて前に大きく出し、左腕を後ろに大きく引く。このようにすると、腰の回転が止まり、腰に負担をかけることなく、長時間歩けるようになります。
3つ目は、大股で歩くこと。具体的には、かかとから着地するようなイメージで歩くといいそうです。前足をかかとから着地すると、後ろ足が自然と地面を蹴る形になります。これによって、大股で歩いても前足に素早く重心を移動させることができます。

インターバル速歩を週120分行うことで、「ややきついと感じる運動(早歩き)を週60分」という体力アップの目標値が達成できます。取り入れる際には、自分の生活スタイルに合わせて、1日30分を朝10分・昼10分・夕10分と分けて、週4日行う方法や、土日に60分ずつまとめて歩く方法など、柔軟に調整することも可能です。
また、インターバル速歩では3分ごとに緩急を切り替えますが、いちいち時計やスマホをチェックするのは面倒に思うかもしれません。そこでおすすめなのが、3分ほどで終わる曲を集めたオリジナルのプレイリストを作っておくこと。時間を測る代わりになるだけでなく、好きな曲を聴きながら歩くことで気分も高揚するでしょう。
体が引き締まる、ぐっすり眠れる…
生活にポジティブな効果が継続のカギに
トレーニングウェアなどを着る必要がなく、誰でも、いつでも気軽に行えるのが、インターバル速歩のいいところです。ここからは、継続して実施することで得られる主な効果について見ていきます。
基礎代謝が上がって体が引き締まる
インターバル速歩では、全身の約60%を占める下半身の筋肉が鍛えられます。筋肉が活性化することで基礎代謝量が上がれば、体内の脂肪が消費されて、引き締まったボディラインを得られるでしょう。さらに、腕をしっかり振ることで二の腕が引き締まり、また、腰やひざ周りの筋肉や腱が強化されて体を支えやすくなるため、腰痛やひざ痛の改善も期待できます。

生活習慣病が改善する
インターバル速歩を行うことで血管壁が柔らかくなり、血流が改善されるとともに血圧が低下し、心臓や血管への負担が軽減されます。これによって、動脈硬化の予防につながるのです。また、血糖値にも大きな改善が見られ、特に体力があまり高くない人ほど効果が得られることがわかっています。
よく眠れるようになる
体内時計を司る「マスター時計遺伝子」の機能は、加齢によって劣化すると言われています。これをリセットするには、光や運動など適度な外的刺激を与えることが有効です。インターバル速歩を決まった時間に行い、それを基準に食事や仕事などを組み立てれば、体が日内リズムを取り戻し、心地良い疲れの中で眠れるようになります。
インターバル速歩を実施する際には、肉離れなどを起こさないためにも、ゆっくり歩きからスタートし、アキレス腱や上半身をほぐすように注意しましょう。また、運動を終えてから30分以内にたんぱく質を摂取すると、筋力アップや生活習慣病など、さまざまな効果がより確実なものになるそう。プロテインやアミノ酸も有効ですが、ブドウ糖を併せて摂取できる乳製品がおすすめです。牛乳やヨーグルトなどを手軽に取り入れてみましょう。
また、インターバル速歩は、ケガをした後のリハビリテーションにもいいと言われています。膝や足裏など、どこかに痛みを抱えている人も、症状が悪化しなければ、インターバル速歩を続けましょう。痛みが強い人は、2本のポールを持って歩くポールウォーキングや、膝に負担をかけずに筋力をアップできる水中ウォーキングも試してみてください。

登山が趣味であり、国内・海外のさまざまな山に挑戦しているという能勢さんは「年を重ねてからも人生を楽しく送るには、体力が必要です」と断言します。元気な体で長く過ごすためにも、まずはインターバル速歩を2週間続けることから始めてみましょう。