痛みの雑学

手首や指が痛むのは腱鞘炎?
痛みの原因、セルフケア、女性に多い理由とは

Vol.8手首や指が痛むのは腱鞘炎?痛みの原因、セルフケア、女性に多い理由とは

監修:大井 宏之先生

聖隷浜松病院
手外科・マイクロサージャリーセンター センター長
大井 宏之先生

富山大学医学部卒業。長野県厚生連佐久総合病院での臨床研修を経て、整形外科医として勤務。1995年に聖隷浜松病院 整形外科に入職し、97年に同院 手外科・マイクロサージャリーセンター勤務。米国研修を経て、現在は同センター長を務める。整形外科および手外科専門医。上肢のエキスパートとして、日々治療や啓発に携わる。

指の付け根などに痛みや腫れが起こる腱鞘炎は、主に手指の使いすぎなどによって発症するといわれています。起こる部位によって名称が異なり、手指の付け根に生じる「ばね指」、手首の親指側に起こる「ドケルバン病」などが代表的です。手を使う仕事に従事する人や、ピアノなどの楽器を演奏する人がなりやすい傾向にありましたが、最近ではパソコンやスマホの長時間利用が原因のこともあるようです。「腱鞘炎かな」と思った場合、適切に医療機関を受診することが大切ですが、軽いうちはセルフケアで改善できることもあります。

今回は、腱鞘炎の主な原因やセルフケアを聖隷浜松病院 手外科・マイクロサージャリーセンター センター長の大井宏之先生に伺いました。

女性に多い? 腱鞘炎(ばね指、ドケルバン病など)とは

腱鞘炎とは、腱という骨と筋肉をくっつけている組織と、腱が通る「腱鞘」というトンネル状の組織に炎症が起きた状態のことです。炎症によって腱鞘が肥大したり、腱が腫れたりして関節の曲げ伸ばしなどがスムーズにいかなくなるほか、腫れや痛みなどの症状が生じます。無理に動かすと強い痛みが走ることもあります。

腱鞘炎は、生じる場所によって名称が異なります。手指の付け根に生じると「ばね指」、手首の親指側に生じると「ドケルバン病」と呼ばれます。

ばね指の主な症状・メカニズム

「ばね指」は、指の付け根の屈筋腱(くっきんけん)と腱鞘の間に起こる炎症です。炎症が起こって腫れた腱が、指の腱鞘を通ろうとすると、スムーズに腱鞘を通過できず引っかかりが生じます。その時に、関節の曲げづらさや痛みといった症状を感じます。

通常、指の曲げ伸ばしの際に腱は腱鞘内をスムーズに行き来します。しかし、指の腱や腱鞘に炎症が生じていると、指を伸ばすときに、炎症を起こして腫れている腱が炎症を起こして狭くなった腱鞘内を一気に通過し、指がカクンと跳ね上がります。この様子が、ばねじかけのように見えることから「ばね指」と呼ばれています。

ばね指の主な症状・メカニズム

ドケルバン病の主な症状・メカニズム

ドケルバン病とは、手首の親指側にある2本の腱と腱鞘に生じる腱鞘炎です。発見した博士の名前から、ドケルバン病と名付けられました。

手首の親指側には、親指を伸ばす働きをする短母指伸筋腱(たんぼししんきんけん)と、親指を広げる働きをする長母指外転筋腱(ちょうぼしがいてんきんけん)という2本の腱があります。親指を曲げ伸ばしたり、広げたりする動きを頻繁に繰り返すことで、これらの腱と腱鞘に炎症が生じます。その結果、腱が腱鞘をスムーズに通過できなくなり、手首の親指側あたりが腫れたり、親指を動かすたびに痛みが出たりします。

ドケルバン病の主な症状・メカニズム

腱鞘炎と間違いやすい、手首や指に痛みが生じる病気

手首や指の痛みは、腱鞘炎以外の病気でも生じることがあります。代表的な病気をご紹介します。

母指CM関節症

母指CM関節症

親指(母指)の付け根にあるCM関節(第1手根中手骨関節)という関節の軟骨が、使い過ぎや老化に伴って摩耗することで、関節が腫れたり、変形したりして痛みが生じる病気です。小さな物をつまむ時やビンのふたを開ける時など、親指に負担がかかる作業をする場合に痛みが出ます。

母指CM関節症で痛みが出る箇所は、ドケルバン病によって痛みが生じる箇所に近いので、両者を間違えることがあります。母指CM関節症が進行すると、痛みに加えて、亜脱臼や変形のために関節部分が膨らんだり、親指の開きが悪くなったりします。

ヘバーデン結節

ヘバーデン結節

結節とは、骨のコブのことです。指の第1関節(DIP関節)に痛みや腫れが生じ、コブのようなものができて変形し曲がってしまう病気を、見つけた医師の名前にちなんで、ヘバーデン結節といいます。症状の度合いには個人差が大きく、強く変形して手を握りしめるのが困難になる場合もあれば、いつの間にか痛みが気にならなくなるほど軽い場合もあります。また、1本の指だけに症状が出ることもあれば、複数の指に生じる場合まで、さまざまです。原因は不明ですが、一般的に40代以降の女性や、手をよく使う人に発症しやすい傾向があります。

腱鞘炎が女性に多い理由

腱鞘炎は、決して珍しい病気ではありません。少し前のデータですが、ばね指やドケルバン病に代表される狭窄性腱鞘炎の、日本での1年間の発症例は、10万人あたり28人、日本の人口に換算すると約4万人といわれています。生涯有病率は2.6%で、数字だけ見ると100人に2人以上は、人生で一度は腱鞘炎になっている計算になります。

腱鞘炎は、40代~60代の閉経から更年期を迎えた女性や、妊娠出産期の女性によくみられます。しかし、なぜこの時期の女性に多いのかは、実はよくわかっていません。

どちらも女性ホルモンの変動が大きくなる時期であることから、腱鞘炎の発症には女性ホルモンとの関わりを指摘されることもあります。
女性ホルモンの変動や体の変化などの影響で生じたむくみによって腱鞘内を通る腱のスムーズな動きが妨げられ、腱鞘と腱がこすれることで炎症が生じるという説もありますが、正確な原因はいまだによくわかっていないのが現状です。

また、糖尿病も腱鞘炎の発症に関係します。糖尿病の人は毛細血管の機能が悪くなるために組織がむくみやすくなり、同様に腱鞘炎を起こします。

腱鞘炎が起こりやすい人の特徴・行動

詳しい原因はわかっていない腱鞘炎ですが、発症しやすい人には特徴があったり、よくしている行動があったりするといわれています。一般的に、腱鞘炎を生じさせやすいといわれる特徴や行動の一部をご紹介します。

腱鞘炎が起こりやすい人の特徴・行動

腱鞘炎になりやすい人の特徴

先述したとおり、40代~60代の閉経から更年期を迎えた女性や、妊娠出産期の女性が腱鞘炎になりやすい傾向にあります。特に産後は、生まれたばかりの赤ちゃんを抱っこする時に、親指と人差し指を大きく広げて首を支える動きが多くなることで、ドケルバン病が誘発されることがあります。

それ以外にも、以下に当てはまる人は、腱鞘炎を発症しやすいといわれています。

  • 糖尿病、リウマチなどの持病がある人
  • 腎臓に異常があり、人工透析をしている人
  • スポーツをよくする人
  • 指をよく使う仕事の人

腱鞘炎を引き起こしやすい行動

また、日常生活において、以下のような行動が腱鞘炎を引き起こしやすくするといわれています。

  • スマホやパソコンの長時間使用
  • コントローラーを使ったゲームを長時間する
  • 文字をたくさん書く
  • 編み物や裁縫をする
  • ピアノなど楽器の演奏を長時間行う

ただし、腱鞘炎のなりやすさには個人差が大きく、同じ行動をしていても全員が腱鞘炎になるとは限りません。手の小さい人や筋力の弱い人がなりやすいといわれることもありますが、必ずしもそれらが関係しているとは言い切れないようです。

腱鞘炎になったらどうする? 効果的なケアと受診の目安

ばね指、ドケルバン病に代表される腱鞘炎では軽度の場合、痛みの緩和に有効なケアによって自然に症状が改善していくこともあります。ただし、セルフケアで症状の改善が見られない場合は、適切に医療機関を受診することが必要です。ここでは効果的なセルフケアと、受診の目安をご紹介します。

まずは安静にする

親指の付け根や指の関節に痛みや腫れが生じるなど、腱鞘炎のような症状がある場合、まずはできるだけ安静にすることを心がけましょう。ただし、極端に動かさないでいると手指が固まってしまい、さらに動かしにくくなってしまうことも。痛みを感じない程度に動かしつつ、炎症が進行しないように気をつけておきましょう。

湿布やサポーターは有効?

腱鞘炎のような痛みや腫れがある場合、湿布などの消炎剤を用いることに問題はありません。ただし、手はしょっちゅう動かしたり洗ったり、水に触れたりする機会があるため、湿布薬だと、ずれたり剥がれたりするのが気になってしまうこともあるでしょう。湿布などの貼るタイプの消炎剤よりは、クリームやゲルなど塗るタイプのほうが使い勝手がよいかもしれません。

腱鞘炎でお困りの場合、親指を支えるサポーターが有効なこともあります。親指に負担がかかるときには取り入れてみてもよいでしょう。

ばね指に効果的なセルフケア

軽度のばね指は、ストレッチが症状の緩和につながることもあります。

例えば、ばね指のような症状があり、関節が曲げ伸ばししづらいと感じた場合は、指の第1関節を反対の手で持ち、伸ばすように引っ張ってみましょう。関節を広げて、指を曲げ伸ばししやすくする効果が期待できます。お風呂につかっている時など、体が温まっている時に行うのがおすすめです。

ばね指に効果的なセルフケア

こんな時は病院へ、腱鞘炎の受診の目安

腱鞘炎はセルフケアだけで改善することもありますが、日常生活に支障が出ている場合は我慢せずに医療機関を受診しましょう。

医療機関でも状態によっては経過観察になりますが、痛みが強い場合は、腱鞘内ステロイド注射をして、痛みを取り除く治療をすることもあります。ステロイド注射をしても改善しない場合や再発を繰り返す場合、注射ができない体質である場合、患者が手術を希望するといった場合は、腱鞘を開く手術(腱鞘切開)を行います。ステロイド注射をした場合の再発率は約60%ですが、手術の場合はほとんど再発しません。

腱鞘炎のなりやすさには個人差がありますが、一般的には指や手首を酷使することで生じやすいといわれています。手や指をたくさん使った場合は、一日の終わりに軽くストレッチをするなど、毎日頑張っている手をいたわってあげましょう。

更年期や妊娠出産期などの女性は特に生じやすい傾向があるので、違和感があればかかりつけ医に相談を。また、なかには腱鞘炎だと思っていたら別の病気だったということもあります。痛みの経過に注意し、改善している様子が見られない場合は医療機関を受診するなどして、大切な手や体を守ってくださいね。

PAGETOP