教えて!痛みの達人

籾木結花さん / サッカー選手 インタビュー

第3回 籾木結花さん / サッカー選手
提供:Linköping FC / 撮影:Filip Oskarsson

ケガや痛みは「体のサイン」
“ピッチ上の小さな巨人”籾木結花選手に聞く、痛みとの向き合い方

現在、スウェーデン・ダームアルスヴェンスカン(女子1部リーグ)のリンシェーピングFCに所属する籾木結花選手。デビュー以来、所属チームはもちろん、サッカー日本女子代表チーム「なでしこジャパン」にも招集されるなど、さまざまな場所でプレーをしています。

これまでに何度か環境が大きく変わるタイミングでケガを負い、ピッチから離れる経験をしたこともある籾木選手に、痛みの対処法や痛みとの向き合い方についてお話を伺いました。

籾木 結花(もみき・ゆうか)さん提供 / 撮影:Kome

籾木 結花(もみき・ゆうか)さん

1996年生まれ。アメリカ・ニューヨーク州出身。

日テレ・東京ヴェルディベレーザのエースNO. 10を背負い、なでしこリーグ5連覇に貢献。チーム・個人含めて14個のタイトルを獲得した。2017年になでしこジャパンデビュー。サッカー日本女子代表(37試合14ゴール)の中心選手としてプレーし、A代表の10番として代表を牽引。2020年5月に女子サッカー・世界トップリーグNWSLのOL Reignに完全移籍。2022年、OL Reignから期限付き移籍していたダームアルスヴェンスカン スウェーデン1部リーグのリンシェーピングFCに完全移籍。サッカー選手と並行し、スポーツに関わる事業会社「クリアソン」にも勤務。海外移籍後もオンラインを活用し、大学生のキャリア形成支援などの業務を行う。

「今できることを頑張ろう」ケガした時こそ、気持ちの切り替えが大切

「今できることを頑張ろう」ケガした時こそ、気持ちの切り替えが大切
提供:Linköping FC / 撮影:Mia Eriksson

「小学2年生でサッカーを始めた頃から擦り傷や切り傷は耐えませんでしたが、筋肉痛などのいわゆる「痛み」が気になり出したのは、中学生になった頃です。体の成長に伴い筋肉量が増えたり、より厳しいトレーニングをするようになったりして筋肉に疲れがたまり、痛みが出るようになったのだと思います。当時はトレーニングの知識がほとんどなく、体をケアできていなかったことが筋肉痛の主な原因だったと思います。

ただ、幸いにしてあまり大きなケガをすることはありませんでした。サッカー選手は、前十字靱帯を損傷することが多いんです。前十字靭帯は、膝の関節の内部にある靭帯で、一度損傷してしまうと自然に治ることはほぼありません。スポーツを続けたい場合は手術が必要で、長期離脱せざるを得なくなります。

私は前十字靱帯を傷めることがなかった代わりに、肉離れに悩まされました。最初に経験したのは中学生の時でした。太ももの裏の筋肉(ハムストリング)がピキッといく感覚があり、「あ、やったな」と感じたのを今でも覚えています。

その後も何度か繰り返しました。特に2017年の年末から2018年にかけては、肉離れを連発してしまい、半年間ほどサッカーができませんでした。それなりの長期離脱でしたが、復帰の目算は立っていました。なので、さほど落ち込むわけでもなく「今できることをやろう」と、ケガを治すことに集中しつつ、試合に出ている選手のサポートなどを積極的に行っていました。

その後も大きなケガはしていないのですが、「タイミングが悪かった」ところはあったと思います。例えば2019年には、日本代表チーム招集の3日前に、3日間の安静が必要なケガをしてしまいました。せっかく招集されたのにリハビリからスタートとなると、代表としての役割が果たせません。そこで、監督と話し合い、この時は無理をせず辞退することにしました。また、W杯開幕前にも小さな肉離れを起こし、予選の3試合に出られなかったこともあります。

籾木 結花(もみき・ゆうか)さん
提供:Linköping FC / 撮影:Mia Eriksson

2020年、現在のチーム(リンシェーピングFC)でのデビュー戦でも疲労骨折をしてしまいました。試合中、相手チームの選手と接触した時に、「パキッ」と骨が折れる音が聞こえました。折れたのは、足の中足骨(ちゅうそっこつ)という骨でした。中足骨は、一時的な負荷や衝撃で折れる骨ではなく、繰り返し負荷がかかったり疲労がたまったりすることで骨折を起こすのだと、担当の医師から説明がありました。この時は初の海外挑戦かつコロナ禍で、しかもアメリカのチームと契約した直後、スウェーデンのチームへの期限付き移籍が決まったため、短期間で2カ国の移動とチーム移籍を経験するなど、心身ともに負担が大きい時期でした、そうしたさまざまな負担が、知らず知らずに蓄積され、ケガに至ったのかもしれません。

籾木 結花(もみき・ゆうか)さん
提供:Linköping FC / 撮影:Filip Oskarsson

移籍直後という大事なタイミングだったので、試合に出られないことはとても残念でした。ですが、ケガを受け入れるのは案外早かったと思います。ピッチの外からチームを見られたので、結果的にプラスの経験にもなりました。チームメイトのプレースタイルの分析ができて、その結果を復帰後のプレーに生かすことができました。

筋肉を「ゆるめるケア」で、痛みやケガを予防

筋肉を「ゆるめるケア」で、痛みやケガを予防
提供:Linköping FC / 撮影:Mia Eriksson

ケガをした時には、「体の使い方が悪かったのでは」「どこかに原因があったのでは」と振り返り、次に同じケガや痛みを抱えないよう修正を重ねています。試合中やトレーニング中に撮影した映像を自分でチェックするとともに、チームのトレーナーからもフィードバックをもらい、体の使い方を調整することは、日々欠かさず行っています。

筋肉のケアでは、「ゆるめるケア」を取り入れています。筋肉のケアというと、多くの方がストレッチを思い浮かべると思います。もちろん、ストレッチで筋肉や腱などを伸ばすことは大切です。ただ、筋肉が固いままストレッチをすると、負荷がかかり、筋線維が傷ついてしまうことがあります。傷ついた部分を修復すると、筋肉は固さを増してしまい、存分に力を発揮しにくい状態になってしまいます。なので、ストレッチをする前に、まずは固まった筋肉をゆるめることの大切さを学び、実践しています。例えば、肩を思いっきりギューッとすくめてから一気に力を抜き、肩をストンと落とすとか、そんなふうに筋肉の力がゆるむ状態を、普段の生活から意識すると、やりやすいかもしれません。適度に力を抜く状態を覚えたことで力みがなくなり、プレー中も筋肉や関節に負荷をかけることが少なくなったと思います。慢性的な筋肉の痛みもやわらぎました。

力みをなくすことについては精神面でも意識していて、ヨガで呼吸を整えたり、マインドフルネスの時間をとったりもしています。

籾木 結花(もみき・ゆうか)さん
提供:Linköping FC / 撮影:Mia Eriksson

それでも、ケガや痛みで試合を欠場せざるを得なくなることはあります。そんな時にはファンの方々の声が大きな支えになります。「自分の復帰を待ってくれている人がいる」というだけで、大きなモチベーションが湧いてきますし、つらいリハビリ中の励みにもなります。

今年27歳になり、サッカー選手としてはベテランの年齢になってきましたが、これからも体と心のケアを怠らず、日々成長して、できる限り長く現役を続けていきたいです。

痛みは「体からのサイン」、決して目を背けないで

痛みは「体からのサイン」、決して目を背けないで

2020年に現在のチーム(リンシェーピングFC)に移籍してから、丸3年がたちました。

チームのあるリンシェーピングという都市は、スウェーデンの首都ストックホルムから電車で1時間半程度南下したところにあります。スウェーデンの中では4番目か5番目の規模の都市ですが、人口は10万人程度です。日本にいた時はずっと東京で暮らしていたので、その時と比べるとだいぶ人が少なく、いい意味でのんびりできています。東京は人も多いし、情報も物が行き交うスピードも、いろんなものが速いですよね。それも刺激的でいいのですが、今の私には、リンシェーピングのゆるやかな感じのほうが合っているようです。

籾木 結花(もみき・ゆうか)さん

環境の変化に伴い、サッカーとの向き合い方にも変化がありました。今は「ただサッカーが好きで、ひたすらボールを蹴っていた」、幼い頃に戻れたような気持ちでプレーできています。

また、痛みとの付き合い方も変わりました。日本だと、少しくらいの痛みなら無理をしてでも出場する空気があり、私もそれに流されてつい無理をしがちでした。でも、海外の選手はまったくの正反対で、決して無理をしないんです。ケガをした状態では、100%の力を出すことができません。ケガや痛みがある時は、無理せずにしっかり治してコンディションを整えてからのぞむのが、彼らの考え方です。私も自然とそれにならい、今では痛みがある時には無理をしないようになりました。

痛みとは、「体からのサイン」だと、私は思っています。 体にどこかおかしいところがあるから、痛みが出ているはずです。なのに、感じているはずの痛みに目を向けず、気付かないふりをしていることが多いのではないでしょうか。過去には私もそうして自分の体が出すサインに、見て見ぬふりをしていたことがありました。ですが、それでは痛みを改善することができません。まずは、体が出す痛みのサインを見逃さず、しっかりと向き合うことが大切だと思います。

痛みに「気付き」、痛みを「無視せず」、そして、痛みがある時には「頑張らない」こと。これが私なりの、痛みとの付き合い方です。

籾木 結花(もみき・ゆうか)さん
提供:Linköping FC / 撮影:Mia Eriksson

私は153cmと小柄な体ゆえ、相手の肘が顔に当たったり、膝が太ももにぶつかったりすることがあり、人と違う場所が痛むことも少なくありません。でも、その分、相手の間をすり抜けたり、すばやく動いて相手を攪乱したりすることができます。短所でもあり長所でもあるこの体で、これからもたくさんサッカーを楽しんでいきたいです。

お気に入りのポーチにサプリメントを入れて、肌身離さず

お気に入りのポーチにサプリメントを入れて、肌身離さず

籾木選手が“日々のケアに欠かせないアイテム”として挙げてくれたのは、サプリメントを入れるポーチ。「スウェーデンに友だちが来るたび連れて行く」というお気に入りの雑貨屋さんで買った、オーガニックコットン素材のポーチには、普段飲んでいるサプリメントがぎっしり詰まっています。

「遊び心のあるかわいいデザインと手触りの良さが気に入って、デザイン違いや大きさ違いのものをいくつも持っています。この象さんのデザインのポーチには、普段飲んでいるサプリメントを入れて、試合の時も練習の時も肌身離さず持っています」。サプリメントは、ビタミンCやマグネシウムなど10種類くらいを常備し、体の状態に合わせて飲んでいるそう。「必要な栄養をしっかり摂取し、体の外側と内側の両方から、痛みにアプローチしています」。

痛みやケガともまっすぐに向き合う籾木選手の姿を見て、お話を伺っているこちらもハッとさせられました。痛みを感じたり、ケガをしたりした時は、ついネガティブにとらえがちですが、それもひとつの好機と考え、常に成長しようとする籾木選手は、日本中の、さらには世界中の女子サッカー選手の目指すべき姿といえるのではないでしょうか。

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